大学職員から北米スタートアップのCOOへ【海外の仕事・就職】

お話を聞いた人:
英語コーチングプログラム企業代表取締役・COO ホール奈穂子さん

英語スピーキング能力を鍛えるオンライントレーニングプログラムを開発・販売するスタートアップ企業の日本法人代表取締役兼カナダ法人COO

日本ではどんなお仕事を?

私のもともとのキャリアは、今とぜんぜん違っていて、ばりばりの理系なんですよ(笑)

岡山大学の農学部卒なんです。卒業後に、国家公務員試験を受けて、文科省の技官として、九州大学の農学部に就職しました。

学生の研究や実験実習をサポートしながら、自分自身の研究を行うような仕事をしていたんです。学会発表に行ったり、教授と一緒にプロジェクト設計をしたり。

キャリア転換のきっかけは?

ある時、大学の経営に携わる大きな会議に参加する機会があったんです。そこで農学部を超えた大学というものの大きさを改めて感じました。

九州大学が当時、国際化を図っていた時期で、そういった大きな大学の経営にワクワクして、自分もそうした国際化のプロジェクトに参加したいと思ったんです。

そこで大学経営に関われる職員になるために、内部でキャリア転換を図りました。

そこで英語の勉強を本格的に?

英語は好きだったけど、上手というわけではなかったので、国際化のプロジェクトに携わる職員になるための説得材料として、TOEICのスコアを取ることにしたんです。

頑張って勉強して900近いスコアを取ったんですが、その時にテストの点数を上げるための勉強は実践に役に立たない、ということを痛感したんです。

もう20年くらい前の話ですが、今思うと、スコアが高くても、仕事で使えるレベルにはなっていなかったと思いますね。

新しい配属ではどんな仕事を?

希望通りに国際的な業務ができる部署に配属され、アジア圏の国立大学と学生同士を交流させる共同事業を始めたり、学生がアメリカの大学で学ぶ短期プログラムを開発したりなどしました。

その後、カリフォルニアにある九州大学のオフィスの異動になり、運営スタッフとして毎年およそ200人ほどの学生をサポートする仕事をしていました。

ホームステイのアレンジはもちろん、学生同士の交流イベント、シリコンバレー企業で働く人々との交流会、アップルなどの企業見学会など、いろんな企画を行いました。

その経験が転換点に?

そうです。カリフォルニアでいろんな人に会い、いろんな経験をした学生たちが「自分も世界で活躍したい」と顔を輝かせて帰るのを見るのが、私の大きな喜びでした。

でも、そういう想いを持ちながらも、英語があまりにも話せなくて、夢を実現できない。

日本でもトップレベルの大学に行く優秀な日本の学生たちが、英語という壁で世界に羽ばたけないのが、日本の教育に携わる大人として、とても申し訳ない気持ちになったんです。

ホールさんが配属されたカリフォルニアには、アップルやGoogle、FacebookなどのIT企業が集まるシリコンバレーがあるだけでなく、スタンフォード大学などの有名大学もあり、日本からの留学生も多い州。

そこから英語教育の方向へ?

はい、それがきっかけで日本の英語教育をなんとかしたいと模索するようになりました。

そして、今のビジネスパートナーの方と出会いもあり、大学の仕事を退職して、東京大学と共同開発した英語スピーキングのトレーニングプログラムの会社を立ち上げました。

言語脳科学を元に作られたプログラムで、英語で聞き、英語で考え、自分の言葉として、自然に英語が話せるように訓練するものです。

お陰様で、今では、多くの企業の研修素材になるなど、海外出張の多いビジネスマンや学生さん、研究者の方々に利用いただいています。

退職するのに勇気は?

もちろん、安定した職種ですからね。とてもたくさん考えました。家族もいますし。

そのまま残ってたら、それなりに職位は上がっていただろうけれど、配置換えなどで、国際教育とは関係のない部署にもいかなければなりません。自分に合わない仕事もしなくちゃいけない。

私にはそういうキャリア作りが合わなかったのも、退職を決めた理由としてあります。その組織の中でえらくなっても意味がなくて。新しい挑戦をしながら、情熱を傾けられる仕事をしていく方が、自分らしいかなと思ったんですよね。

キャリアの意識も海外で変わった?

カリフォルニアにいた頃、いろんな方とお話をした際に、みんな自分を「〇〇のエンジニア」とか「PRスペシャリスト」みたいに、自分の専門から自己紹介するんです。会社については「今は〇〇で働いています」と2番めに言う程度。その時に、自分が自己紹介する際に「大学で働いています」というだけだったのが嫌だったんです。

自分の専門はこれで、そのスキルを使って世の中にこういう価値を与えています、みたいな事が言える事に憧れをもったんですよね。英語教育分野の経営者として、独立しようと思ったのも、そうした経験があったからかもしれません。

実際にカナダで起業してどうでしたか?

日本と全然違うので本当に大変でした。行政はまったく動きませんし、こっちの言うことは聞いてくれませんから(笑)

また、会社として人を雇うのにも気をつけなければならない事がいろいろあります。日本だと気にすることがない宗教、人種はもちろん、性別や年齢なども聞いてはいけません。

特に、英語の先生を採用する際は、アクセントを知りたい所もあるんですが、人種などの出自を聞くわけにはいかないので、履歴書を見て判断するしかありません。そういう所は、やはり多民族国家だな、といます。

今後の目標は?

私がビジネスを始めた一番の想いは、日本人が国境を超えて、彼らの能力を発揮して世界で活躍してもらうことです。私のこうした想いに賛同して頑張っている社員達が、頑張ったら頑張った分だけのリターンがある仕組み作りを出来たらと思っています。

そうすることで、よりよいサービスを提供し、私たちのサービスを利用してくれた人々が、さらに世界で活躍して行ってくれる。それが常に私の目標ですね。

それから、私はコミュニティ作りが好きなので、自分の住む地域でのコミュニティに貢献する活動も増やしていけたらと思っています。

これから海外へ出たい方へアドバイスを。

私の場合は、日本は住みやすい国でしたが、日本が好きな人も、日本の環境が苦手な人も、一度は、違う国へ行ってみるといいと思います。生きづらさを感じていたり、モヤモヤを抱えながら、でも「ここしかない」と諦めていたりする方がいるならば、一度でもいいので、場所を変えて生活してみるのはおすすめです。

私の娘たちは海外に来てから、本当に伸び伸びと、彼女たち本来の能力や魅力を発揮しています。

環境が変わると、自分自身について新しい発見があったり、逆に日本の素晴らしさを違った視点で知ることもできますよ。

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