海外の高級フレンチでワインソムリエ【海外の仕事・就職】

お話を聞いた人:
ワインソムリエ・ワインコンサルタント 長岡裕司さん

トロント生まれ。日本の大学卒業後、カナダに戻り国内有数の飲食企業に勤務しキャリアを積む。現在は独立し、ワイン販売の営業、イギリスのワイン酒類教育団体にてワイン講師、オンタリオワイン品質管理者、ワインクラブのバイヤーのほか、コラムの執筆やフリーのワインソムリエとしても有名店に呼ばれるなど活躍。

生まれはもともとカナダ?

そうなんです。トロントで生まれて、9歳で日本に行きました。そこから日本で育ち、日本の大学に進学して経済学を勉強しました。卒業後は、金融業界に進むつもりだったんです。

でも、高校・大学の学生時代に働いていた飲食の仕事が好きで、飲食業を続けたいと思ったんです。ただ、日本でそのまま飲食業界で働くより、自分が生まれたカナダの飲食業を経験をしてみたいと思って、大学を卒業してからカナダに戻ってきました。

カナダでの就職活動は?

トロントに戻ってきて、まずは日本食レストランで働き始めました。その後、カナダの一流レストランでの就職を目標に、本格的な就職活動を始めました。雑誌やインターネットでトロントの有名店を調べては、訪ねて行ってレジュメ(履歴書)を渡すという活動です。

その中でカナダでも有数な高級レストランの系列店2店舗から、「サーバー(給仕)はまだ無理だけど、バッサー(皿下げ)から始めてみない?」と運よく採用をいただき、そこから本格的に飲食サービスのプロとしてキャリアをスタートしました。

そこからワインの勉強を?

欧米の飲食業では、サービスのプロフェッショナルは高く評価されるので、スキルアップは重要です。

そこで、英語の勉強に加え、自分にしかない武器をつけようと思い、ワインの勉強を始めました。なので、実はワイン好きでソムリエになったんではないんですよ(笑)自分にとっては、一流のサービスマンになるためのツールの一つとして勉強しました。

そうして、いろんな店舗に異動しながらバッサーからサーバー、シフトアドバイザー、アシスタントソムリエと昇格を重ね、10年目にトロントの高級フレンチでソムリエになりました。

長岡さんがソムリエとしてキャリアを積んだビストロのBiff’s Bistroと高級フレンチのAuberge du Pommierは、両店とも現地のメディアでもトロントのベスト・レストランとして上位にランクされる場所。(Photo: Auberge du Pommier)

同じく英語の勉強も?

9歳で日本に帰った後も親の教育のおかげで英語は続けられていましたが、やはりサービスのプロとして仕事する上では、それなりの英語力は必要ですから、仕事を始めてからも英語の勉強もしてきました。

英語の勉強についてアドバイスを聞かれることもありますが、私の経験では、やはりインプットとアウトプットはとても大事だと思います。知らない言葉や言い回しに出会ったら、そのままにしないで、すぐに聞いたり、調べたりする。そして使ってみる。これが一番ですね。

あと、知らないことを知らないって直ぐに聞ける人(友人や講師)が周りにいることも同じくらいに重要だと思います。

ソムリエ後もさらにディプロマを?

実はカナダで家族を持ったことで、夜の仕事が多い飲食業を離れる事を考えたんです。そこで、日本の学歴を生かして金融のコースをとりました。ところが、好きな仕事を辞めて転職するための勉強に、全然モチベーションが上がらなくて(笑)

そこで、飲食業で将来独立するための資格の勉強に切り替えようと思い、イギリスを本拠地とする世界有数のワイン教育機関で勉強して、最高位のディプロマ取得しました。

今はその資格や経験を生かして独立し、ワイン会社の営業やバイヤー、講師、フリーランスとしてワインソムリエのお仕事をさせていただいています。

様々なイベントやレストランで、ワインについて講演を行う長岡さん。

日本と欧米で接客業の違いは?

大きな違いは、チップとテーブル担当制ですね。この違いが、私自身こちらで長く接客業を続けられている理由の一つでもあります。

欧米ではチップがあるので、接客業が職業として続けられます。優秀なキャリアサーバーは、チップでお家が買えるほどです。当然、それだけのお金をもらうので、こちらもプロフェッショナル。

私たちはオーダーは「取る」のではなく「売る」のが仕事です。電気屋さんがその知識を生かして電化製品を売るように、プロのサーバーはその経験や知識を基にお勧めをするものです。中には、メニューや価格を一切見ずにサーバーとの会話だけで全て決めてしまうお客様もいるくらいです。

テーブル制とは?

高級店だけでなく、気軽なパブでもそうですが、欧米はサービスが担当テーブル制で、呼ばれるまで待つのでなく能動的にサービスします。ドリンクのおかわりも呼ばれる前にお聞きしたり、料理の好みからお勧めを提案したりします。

もちろん日本と違って担当サーバーが来るまで待たないといけない弊害もありますが、その分、個人の責任が明確です。だからこそ、自分の仕事に対して「ありがとう」と直接言っていただけることは、私たちにとって何よりの喜びであり励みです。

この15年様々なレストランで働いて来ましたが、レストランが変わっても、私に会いに来てくださるお客様もいます。こうしたお客様との濃い繋がりが、私がこの仕事を続ける理由の一つですね。

カナダ国内や世界のワイナリーを訪問して、ソムリエとしての勉強を続けてきた長岡さん。

これからの目標は?

長年、カナダでサービスの仕事をしていて、勧めたワインが美味しかったということも含めて、レストランで食事が期待以上の経験や思い出に繋がったと言っていただけた時に、やっていて良かったと思います。日本食業界だけでなくても、海外でそんな経験ができるという事を、若い世代にもっと知ってもらいたいですね。

先日、フレンチ、地中海、メキシカンなど日本食以外のジャンルで現地の飲食店で活躍する日本人を中心にOmakase Toronto Dinnerというイベントを主催しました。今後もこうしたつながりを広げて、日本人の方々が活躍するきっかけ作りをしていきたいです。

海外での就活を考える方へアドバイスを。

スタッフのトレーニングをしてきたり、採用に関わってきたりした経験から、就活ではやはり分かりやすいスキルか英語(コミュニケーション能力)はマストだと思います。

海外はジョブ型雇用なので、プログラミングや料理などのスキルは、力量の判断がしやすく、採用側もリスクなく採用できます。なので、英語力に自信が無くても、どんどん希望する企業にアプローチしたり、求人に応募したりしましょう。英語力が無いからと躊躇しているとチャンスが来ないですし、採用側にとっても機会損失です。

逆に、スキルが無い場合や、全く経験のない仕事に就く場合には、英語力は必須なのでしっかり勉強しておきましょう。

日本から海外へ行く際のアドバイスは?

海外に来る前に必ず英語の勉強をしましょう。海外に住めば自然と英語が出来るようになる、というのは迷信です(笑)

特にワーキングホリデーといった自由に働けるビザの期間を、英語の勉強に使ってしまうのは、キャリアを形成するうえでもったいないです。英語力をつけて最初から働くつもりで来れば、1年を最大限有効に使える上、1年働くことが出来れば、その後のジョブオファーに繋がりやすいと思います。

海外で活躍しているスポーツ選手が良い例で、一年目から活躍できる選手のほとんどはコミュニケーションにストレスが無い人です。まずは必ず、英語力をしっかりつけてから海外に行くといいと思います。

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